福岡地方裁判所直方支部 事件番号不詳 判決
主文
被告人武谷盈を懲役十月に
被告人武谷弘臣及び同三浦道敬を各懲役八月に
夫々処する。
但し被告人武谷弘臣及び同三浦道敬に対してはいづれも本裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。
事実
被告人武谷盈は妻キクエ名義で昭和三年以降福岡県鞍手郡剣村大字中山昭和通りにおいて屋号菊乃家と称して特殊料理屋業を営んでいたが、昭和二十四年十二月からは三女キミ子の名義に変更して同業を継続しているもので被告人武谷弘臣は被告人武谷盈の長男、被告人三浦道敬は被告人武谷盈の長女トミエの婿に当るものであるところ
第一、昭和二十五年六月五日の夜従業婦中村信子及び久我タツエの両名が情夫池永三千年等に連れ出され無断逃走したので被告人等は大騒をし、捜査の結果同月七日の夕刻に至り漸く其の所在を突き止め被告人武谷弘臣及び同三浦道敬において同業者伊豆丸彦平等と共に同村大字中山三菱新入七坑福島光茂方から同夜九時三十分頃中村信子及び久我タツエを菊乃家に連れ戻つたが其の帰途同女等が不貞の態度を示したり鼻唄を唄つたりしたこと及び右両女が菊乃家を逃走する事前に同僚藤田直子、今村ハル子等も其の逃走の相談にあづかつたことを知り、痛く之に憤慨した被告人武谷盈、同武谷弘臣及び同三浦道敬の三名は共同して同夜九時三十分頃から十二時近い頃までの間
一、被告人武谷弘臣は
(イ)、(ロ)、(ハ)、(以上三項省略)
二、被告人三浦道敬は
(イ)、(ロ)、(ハ)、(以上三項省略)
三、被告人武谷盈は
(イ)前記帳場の隣六畳間において中村信子に対して、池永と一緒になつても同人は妻子があり末の見込はない、今の内に手を切れと説得したが、同女が沈默して返答しないので手にしていた手帳を以て、同女の前額部を五、六回乱打し
(ロ)更らに同室に久我タツエを呼びつけて同女に対し、中村信子が池永と一緒になつていることを知りながら何故それを制止してやらぬかと怒号し前記手帳を以て同女の前頭部を二、三回殴打し
(ハ)更らに同室に藤田直子を呼びつけて同女に対し、お前は逃走の発頭人であると信子等が言つているぞと怒号し前記手帳を以て同女の左前額部を二、三回殴打し以て夫々暴行を加え因つて久我タツエに対しては顔面等に全治まで十日間を、中村信子に対しては顔面等に全治まで五、六日を、藤田直子に対しては両頬等に全治まで二日間を要する各打撲傷を負はせて傷害し
第二被告人武谷盈は
(一)昭和二十二年十二月三十日頃山口県下関市園田町の中村貞夫を介して岡田サヨ子を従業婦として雇入れる際同女との間に同女をして自家で接客売淫させることを内容とする契約をし
(二)昭和二十三年二月頃福岡県福岡市千歳町高田賢一郞を介して同人の娘高田ミツノを従業婦として雇入れる際同女との間に前同様のことを内容とする契約をし
(三)同年四月中旬頃前記中村貞夫を介して山口県下関市大字下豊井の清水初ゑを従業婦として雇入れる際同女との間に前同様のことを内容とする契約をし
(四)同年八月二十七日頃福岡県嘉穗郡稲築町の三宅早苗を従業婦として雇入れる際同女との欄に前同様のことを内容とする契約をし
(五)同年十一月二十日頃前記高田ミツノの叔母婿某を介して自称千島生れの津村レイ子を従業婦として雇入れる際同女との間に前同様のことを内容とする契約をし
(六)昭和二十四年二月二十日頃福岡県三潴郡大川町若津の斡旋人辻丸広作を介して長崎県西彼杵郡戸町の森秋子を従業婦として雇入れる際同女との間に前同様のことを内容とする契約をし
(七)同年八月十二日広島県呉市の某男を介して同県生れの船谷フジ子を従業婦として雇入れる際同女との間に前同様のことを内容とする契約をし
たものである。
(証拠説明省略)
法律に照すと被告人武谷盈の判示第一の所為中今村ハル子に対する暴行の点は刑法第六十条第二百八条罰金等臨時措置法第二条第三条に久我タツエ、中村信子及び藤田直子に対する各傷害の点は各刑法第六十条第二百四条罰金等臨時措置法第二条第三条に同第二の各所為は各昭和二十二年一月十四日婦女に売淫させた者等の処罰に関する勅令第二条罰金等臨時措置法第二条に夫々該当しいづれも所定刑中懲役刑を選択するところ以上は刑法第四十五条前段の併合罪であるから同法第四十七条第十条により其の最も重い久我タツエに対する傷罪につき定めた刑に法定の加重をした刑期範囲内において同被告人を懲役十月に
被告人武谷弘臣及び同三浦道敬の判示第一の所為中(以下省略)
そこで主文のとおり判決する。(昭和二六年三月九日福岡地方裁判所直方支部)